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昨今この界隈のシーンで、結成から3年以上もの間、アルバムをリリースしないバンドは珍しい。なぜなら、ネットやゲーム、携帯電話などなど“楽しむことに事欠かない”世代のファンをひとりでも多く惹きつけ、飽きさせないようにするためには、自分たちのアイデンティティを切り売りするごとく次々に音源を作り、ライヴをし続けなければ、すぐに目移りされてしまうからだ。数多のバンドがそれに怯え、初期衝動が薄れ、果ては結成から間もなくしてメンバー脱退や解散というケースがとても多くなった。もっと言うならば、ファンの顔色を伺いながら、芯のない音楽を垂れ流すバンドが昔よりも非常に多くなってしまったようにも思う。悲しいけれど、それがこのシーンの現状のひとつの側面としてあることは事実だ。
そんな推移激しいシーンにおいて、昨年11月24日に、THE KIDDIEは結成から3年を経て、待望のオリジナル・アルバム『BRAVE NEW WORLD』を発売した。彼らの3年間は、ステージで見せる笑顔の後ろで、日々立ちはだかる壁と戦い続けた3年間だったのだろうと想像する。彼らを取り巻く環境や、自分たちが取るべき音楽スタンス……さまざまな壁に立ち向かい、時に疑心を抱きながら、それでも前進し続けることをやめなかった彼らは、少しずつ確実に、人間臭いタフさを持った逞しいバンドに成長していった。その結果、まさに“満を持した状態”で『BRAVE NEW WORLD』の制作に臨めたからこそ、今作は、情熱と躍動ときらめきに満ちた作品になったのだと思う。

そんな大切なファースト・アルバムを携えて全国6ヶ所を廻った今回のツアー・ファイナルで目撃した彼らは、実に血の通った“想いが溢れ出る”ライヴを見せてくれた。
「NOAH」のサビ・パート部分のみを揺紗がアカペラで熱唱し、「ただいま、東京!」の叫び声と同時に、淳のギター・リフが鳴り響き「STEADY」が始まる――。予想外かつドラマティックなスタートは、ツアーで彼らがどれだけ成長してきたかを一瞬にして知らしめた。それにしても、疾走感と青々しくまばゆいメロディが印象的な「STEADY」は、生演奏を聴いてやはり名曲と確信。インタヴューでは無口な淳も、しょっぱなからとても嬉しそうな笑みをこぼしていたし、そらおも、揺紗と共に歌を口ずさみ、ラストのサビ前のブレイクでは思わず拳まで突き上げた。
そんなハイテンションのまま「オイ! オイ!」とオーディエンスを煽って始まったのは、骨太なサウンドが男らしいロックンロール・チューン「プラズマ」。オーディエンスを先導するかのごとく、揺紗は堂々と手を高く突き上げ力強く歌い続け、楽器隊もシンガロングでそれをバックアップ。メンバー紹介&キメ・ポーズを曲間に挟んで魅せる「PAIN」、切なくもワケもなく高揚させられる、青春感満天の「teenageZ」と、惜しげもなく『BRAVE NEW WORLD』収録曲たちが披露されていく。しかも、それを演奏するメンバーが、熱いけれど、まだまだ余裕しゃくしゃくに見えて、なんだかとてもジラされている気分になったのは筆者だけではないだろう。
“もっともっと、聴かせて魅せて!”と、貪欲に求めずにはいられないオーディエンスは、本編中数回挟まれた揺紗独特のゆるゆるトーク(MC)よりも、楽曲への関心の方が高く、演奏が始まった途端の食いつきぶりと、MC時の揺紗に対するツンデレ(?)具合のギャップに、いち関係者として非常に嬉しくなった。なぜならそれは、メンバーももちろんのことだが、“THE KIDDIEの音楽”が本当に好きで、心の底から“楽曲”を楽しみに来ている証拠だと思うからだ。こういう場面を目の当たりにすると、THE KIDDIEは一見、アイドルっぽさも兼ね備えた王道ポップ・バンドに見えるけれど、その核はやはり“ロック・バンド”なんだなと思わずにはいられない。そして、彼らのファンはそれをちゃんと理解している。なんて理想的な関係だろう!
とは言え、ワンマンを重ねるごとに“演奏以外の部分でも楽しませること”を追求し続けている5人は、「God bless you!!!」で、神様にお祈りするポーズなどコミカル・キュートなフリをオーディエンスと共に踊ったり、「泡とサイダー」では、フロント4人がステージ前に飛び出してきてフロアを挑発。それに応戦するオーディエンスがモッシュで暴れ、「夢現ライト」では、キラキラ光る星のライトを振りかざしたり……と、“めいっぱい楽しもう。楽しくさせよう!”という姿勢がビシビシと伝わってきた。打って変わって、海の波間にたゆたうような感覚にさせられた「白鯨」の神秘的なまでの空気感、佑聖がアコギを持った「LOVE」の優しく穏やかな空気感。辛い経験をたくさんした分だけ、人は優しくなれると言うが、こういう歌を説得力を持って披露できるようになったのは、彼らが人知れずの悔しさをバネにしてここまで歩いてきたからに違いない。
「最後まで一緒に汗をかこう!」と、揺紗が更にフロアを煽った後半は「Calling」から。まぶしいライティングで照らされたフロアでは、拳が力強く突きあがっている。ステージを観れば、佑聖とそらおが上手下手に飛び回り、揺紗は淳と肩を組んで楽し気に歌っている。そんな4人を後ろから見守るユウダイも、前に飛び出して一緒に騒ぎたそうなウズウズした表情だ。更に「嵐の夜」からのメンバーとオーディエンスの一体感は凄まじいものがあった。ユウダイのテクニシャンかつダイナミックなドラミングが映えた「Re:evolution」は、サビでそらおのシンガロングとオーディエンスの激しいモッシュも。ライヴ定番曲の「So high」でますますヒート・アップすると、ラストは一呼吸置いて、各自定位置に戻り、じっくりと想いを込めて「Flash」をドラマティックに届けてくれた。
アンコールは「青」「恋して★DISCORD」「翼グラフィティ」など、昔からの大切な曲たちと、メジャー・デビュー曲「smile.」を。曲前、揺紗が満足そうに「みんな、いい表情(かお)してるね」と言ったのを、今でもよく覚えている。ここではユウダイもベスト・スマイルを見せて、ツアー・ファイナルは大団円!!

ただひたすらに“自分たちが発信したい音楽”を信じ続け貫き通してきた5人が、ふと顔を上げた瞬間に気づいた“自分たちがいるこの場所こそが、求め続けていた輝かしい世界なんだ”という事実。――世の中そんなに捨てたもんじゃないということを目の当たりにした5人だからこそ伝えられる“世界のまぶしさと幸福感”を、これから先も、ひとりでも多くの人に届けて欲しいと切に願うと同時に、その“誰にも媚びない野良猫のような奔放さと信念の強さ”をこれからも貫き続けて欲しいと思う。
(文=松本典子、撮影=菅沼剛弘)
【SET LIST】〜SE〜 1. NOAH 2. STEADY 3. プラズマ 4. PAIN 5. teenageZ 〜MC〜 6. God bless you!!! 7. 泡とサイダー 8. 夢現ライト 9. 白鯨 10. LOVE 〜MC〜 11. Calling 12. 嵐の夜 13. Re:evolution 14. So high
〜S-MC〜 15. Flash (ENCORE) 16. 青 17. 恋して★DISCORD 18. BLACK SIDE 19. 翼グラフィティ 20. smile.
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